写真プリントやスライドのような色彩画像の色は、被験者がどのような色彩環境の中でそれを見ているかによって変わってくることを照明認識視空間の概念で予測し、写真を撮影したときに撮影者がその場所に知覚したと同じ色を、その場所とは異なった照明環境で被験者が知覚するには、その写真にどれだけの色修正をしなければならないかを明らかにした。全体の研究は関連する3つの実験からなっている。 実験1 認識軸の移動を示す実験 提示する刺激を色彩画像という複雑なものではなく、物理的に一様な白色の画面とした。照明光は青、緑、黄、赤など12色を採用し、白色刺激が照明光とほぼ反対色の色に認識されることを示した。これは照明光に対応して認識軸が移動したことを示している。 実験2 照明認識視空間の概念に基づく高齢者の忠実な色知覚の呈示方法 高齢者は水晶体が黄変するので外界を見る色が若齢者と異なってくる。その色を照明認識視空間の概念に基づいて明らかにした。実験の考え方、手法ともにつぎの実験3と同じである。また結果も類似しているので、ここでの説明は省略する。 実験3 色彩画像の忠実な色認識のための色仕様の決定 これは本研究の主目的を実行するための実験であり、照明環境としては昼光色から電球色までを取り扱った。写真撮影の環境と観測環境はそれぞれ異なった色温度の照明光で設定した。被験者はまず3分間撮影室にとどまり、その部屋の色を記憶する。その後観測室に移り、そこに提示される観測室の写真を観測する。それらの写真はあらかじめ観測室をいろいろな色温度の照明下で撮影したもので、実験ではそれらの中から記憶と同じ色の写真を選定する。これによって観測室の色温度が変わればどれだけ色修正した写真を提示すれば撮影現場の忠実な色が知覚されるかが分かる。結果は、本研究で検討した最も大きい両環境の差の場合、つまり撮影室が昼光色、観測室が電球色の場合は、修正写真の色は両者のちょうど中間の色温度下で撮影した写真が撮影室の忠実な色を与えるというものであった。しかしその差が3分の1くらい、たとえば観測室の色温度が撮影室のそれとあまり違わない場合は、観測室の色温度の照明下で撮影した写真を与えると、撮影室の忠実な色が知覚できるというものであった。この現象は色の恒常性が100パーセントということである。
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