本研究の目的は、半導体薄膜の音響フォノンのフォノン集束効果を利用して、音響フォノンのプリズムを作製するための基本研究であった。研究の対象は当初薄膜のみであったが、その後の展開で準1次元半導体細線についても調べた。以下に、その結果の概要を示す。 [1]GaAsおよびInAsの薄膜のラム波の分散関係を振動モードを、共鳴超音波スペクトルスコピー法で用いられるxyzアルゴリズムを用いて導出した。その結果、ラム波の分散関係は、その波長が薄膜と同程度を境にして、フォノンの波数ベクトル方向に関する依存性が著しく変化する事が明らかとなった。このため、音速の方向依存性が著しく変化し、フォノン集束効果により、フォノンのスペクトルに応じてフォノンの伝播方向が変わることを示すことに成功した。この結果は予想通りであった。しかしながら、フォノンモードの分離において困難な点があることが明らかとなった。薄膜の厚さ方向の波数ベクトルの量子化のため、分散関係にサブバンドが生じる。これらのサブバンドに属するフォノンは同じ分極を持ち、それらの分散関係は少しずつ異なる。このため、ある一定周波数のフォノンを励起した場合、複数のフォノンモードが一斉に励起され、フォノンのプリズム効果はみられるが。その分離をする事が困難になる。分離の方法および、この薄膜を利用したフォノン集束効果の応用については、今なお検討中である。 [2]フォノン集束効果は音速の異方性に起因しているため。一般に2次元以上で意味があると考えられるが、準1次元系である量子細線などにおいても、結晶の弾性的異方性は依然として存在し、フォノンの伝播に影響を及ぼしているはずである。これを解析するため、グリーン関数をもちいて弾性エネルギーの伝播を実空間で調べることにより、フォノン集束効果を調べた。低周波数では、フォノン集束効果は期待できないが、周波数の高振動数側へ移行してゆくに従い、1次元から3次元への集束パターンが現れると期待された。得られた集束パターンは周波数の増加に対して変化を示したが、3次元系でみられるような明らかなパターンは現れなかった。この原因として、計算機のメモリ上の制約のため、フォノンモードの数が10程度と少ないことが上げられる。この試みに対応する実験は、これまでに行われていない。今後、実験を促しうるような結果を出すべく検討を重ねる。
|