マイクロ/ナノメカニズムでは、形状が非常に小さいことによって従来無視し得た力が顕在化し、場合によってはそれを駆動力にしたメカニズムが提案されている。例えば、対象とする代表長さhに比べ気体の分子平均自由行程λが必ずしも無視できない場合、すなわちクヌッセン数Kn(=λ/h)が無視しえない場合には、分子気体力学(希薄気体力学)に特有な現象が生じ、それを用いたメカニズムが考察される。本研究の目的は、マイクロな系に特有な現象の一つとして、境界壁の温度勾配の存在による"熱ほふく流(Thermal creep flow)"に着目し、これを利用した新しい非接触支持メカニズムにおける動特性の解析手法の確立、さらには面内方向の駆動法を究明し、マイクロマシン要素としての可能性を定量的に解明することである。 本研究では、熱ほふく流を考慮した分子気体潤滑(MGL)解析の拡張の観点から、この非接触浮上メカニズムTILの動特性解析手法として、線形化による周波数領域の動特性解析手法を確立した。この解析では、温度分布が微小で浮上物体が微小振動する場合を対象に、分子気体潤滑方程式を線形化し、温度勾配による静的発生圧力と微小振動による動的発生圧力が独立に記述されることを示し、個々について以下の結果を得た。まず、静的圧力は、温度勾配による熱ほふく流の流量と圧力勾配による流量が釣り合い条件により与えられ、圧力発生量および準静的な剛性をそれぞれ定量化した。一方、動的圧力では、空気膜のばね性と減衰能を解析する理論を構築し、それぞれを定量的に評価した。さらに、静的特性について、モンテカルロ直接シミュレーション(DSMC)法による結果と比較し、よく一致することを確認した。 これらの結果は、学術的には、分子気体力学分野における直接シミュレーション技法の進展を、近年のマイクロマシン研究の飛躍的な広がりに注入するという新しい観点からその意義は大きく、また工学的には、簡便な非接触支持メカニズムの静的特性、動的特性の解析手法を通じて新奇な形状設計を提供しうるものでとして、その有用性が非常に高いと思われる。
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