本研究の目的は、BECを利用することによりはじめて可能となると思われる将来の量子効果素子の可能性を検討することである。中性原子のジョセフソン効果素子、原子レーザ、量子計算などへの応用を考え、複数の光磁気トラップ中に捕獲されたBEC間の結合(トンネル結合およびレーザラマン結合)の問題をグロス・ピタエフスキー方程式から得られる結合方程式の数値計算により解析している。中性原子のトラップ間の結合の問題は、これまで行なってきた半導体結合量子構造(量子井戸、量子ドットなど)におけるトンネル現象と類似の現象でトンネル現象をより普遍的に理解する上でも重要である。本年度は研究対象として2つのトラップに捕獲されたレーザ冷却BoseーEinstein擬縮(BEC)原子あるいは一つのトラップ中の2種類のBECをよく励起準位を介してレーザラマン結合する場合を取り上げ下記の結果を得た。 (1)トラップ内の2つの準位の一方からもう一方へ原子を励起準位を介して移送する場合について解析し、ポンプパルスとストークスパルスが時間的に重なる場合、原子間相互作用が大きいとき、全ての原子がどちらか一方のトラップ準位に落ち込み決して2つの準位に分配されることがないことを示した。どちらのトラップ準位に落ち込むかはレーザ強度に依存するが、レーザ強度に対して周期的にトラップ準位が入れ替わる。この現象は論理演算や原子レーザの出力カップラーとして利用できる可能性がある。 (2)ストークスパルスとポンプパルスが時間的にずれて照射される場合についても解析し、原子間相互作用の効果は原子の完全移送に必要な光パルス強度領域が大幅に緩和されることがわかった。但し、原子間相互作用の値が正か負かによってレーザ波長の離調の符号も変える必要がある。
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