研究概要 |
筋緊張症(ミオトニー)および周期性四肢麻痺という筋疾患には,寒冷により症状が悪化するタイプと,症状が温度に依存しないタイプがある。このことは,ミオトニア・パラドックスと呼ばれ,何故生じるか説明がついていない。本研究の目的は,温度依存性のある骨格筋細胞膜に関するHodgkin-Huxley方程式(以下でHHM式とする)を用いて,この現象が生じるメカニズムを調べることである。 本年度は,哺乳し動物のパラメータをもつHHM式を対象に,低温で症状が悪化するタイプがあることが知られているNaチャネルに異常がある場合について,式の振る舞いを詳細に調べた。具体的には,HHM式においてNaチャネル不活性化過程の電位依存性を規定するパラメータVhとリークコンダクタンスgl(それぞれ低温で悪化するタイプ,しないタイプに関連)という二つのパラメータを変化させたときの分岐現象を,力学系の理論を援用しつつ,数値計算により検討した。 その結果,Naチャネルに異常がある場合にも,Clチャネルに異常がある場合と同様,異常な振る舞いの起りやすさに温度による大きな変化は見られなかった。分岐図をみると,正常な一回の発火が生じるパラメータ領域,筋緊張に対応する反復発火が生じる(すなわち周期解が存在する)領域,筋麻痺に対応する脱分極電位の安定平衡点に収束が生じる領域が互いに隣接すること,これらのパラメータ領域の境界となる分岐現象がhomoclinic分岐およびdouble cycle分岐であり,三領域が出会う点はinclination-flip分岐点であった。 Naチャネルに異常がある場合に低温でミオトニーが生じやすいという臨床的知見と対応する結果が得られなかったのは,想定したチャネルの機能異常のタイプが誤っているか,または,モデルの温度依存性が現実とあっていないためと考えられる。
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