セラミックスと金属からなる熱応力緩和型の傾斜機能材料(FGM)は、過酷な使用熱的環境下において熱応力緩和効果を発現するように組成分布(構成材料の体積分率分布)設計されてきた。しかし、熱応力は合成時の冷却過程においても発生し、時には製品の割れの原因となる。合成時と使用時の熱的環境は大きく相違しており、使用時の熱応力緩和に適した材料組成分布は合成時の熱応力緩和に適さない。しかも選択できる組成分布は、一つの傾斜機能材料に対して一つしか存在しない。そこで、合成時の冷却過程における熱応力緩和は組成設計以外の方法で実現させねばならない。 本研究では、FGMの構成材料であるセラミックス(部分安定化ジルコニア:PSZ)の相変態による体積膨張を利用して、FGMを構成する2つの材料の線膨張係数のミスマッチに起因する熱応力を緩和させようと考えた。PSZを高温から冷却すると正方晶から単斜晶へM変態を起こし、体積膨脹を伴う。この変態は熱応力と温度に依存して進行する無拡散型相変態である。体積膨張を伴う相変態を有効に(必要な場所に、必要なだけ)起こさせるに最適な冷却速度を実現させねばならない。そのためには任意の不均質性を有する傾斜機能平板の境界温度が、任意に時間変化する場合の非定常温度場の解析解を導出せねばならない。FGM平板が片面(セラミックス100%側)高温に加熱、他面(金属100%側)初期温度に保持(即ち冷却)の場合の非定常温度場は、菅野らにより区分的線形不均質法にて解析されている。そこで、この解析解とラプラス逆変換における畳み込みの定理の応用により、FGM平板の板両表面の温度が任意に時間変化する場合の(任意の冷却過程を受ける場合の)非定常温度場の解析解が導出した。この解析結果を利用して何種類かの冷却過程を仮定し、その非定常温度分布を数値計算するとともに、その際起こる相変態分布と熱応力分布を算出した。相変態を起こさせた場合の熱応力緩和を考慮した平板内の最大熱応力が、相変態が起こらない場合の最大熱応力より大きくならないように、温度分布の時間変化(冷却過程)を選択することができた。相変態によりセラミックス100%側の引張熱応力は40%以上も緩和された。
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