研究概要 |
本研究では,高分子系複合材料のマトリックス,繊維-マトリックス界面および積層界面に支配される時間依存変形挙動を調べ,その巨視力学的および微視力学的定式化について検討した.得られた主な結果は以下のとおりである. 1 一方向CFRPの時間依存挙動:荷重一定保持によるクリープ変形はすべての繊維配向角について明瞭に現れる.いずれの繊維配向角およびクリープ応力に対しても,クリープ速度は時間とともに急激に低下して0に近づく.クリープ応力を完全に除荷した後に生じる回復クリープひずみは,先行クリープひずみよりも小さい.この結果は,時間依存応答に粘塑性変形が含まれていることを明らかにしている.また,引張クリープ応力を部分的に除荷した後のクリープひずみはいずれの繊維配向角についても過渡的に減少する.この結果は,部分除荷後の引張応力とは反対向きにクリープ変形を引き起こす内部応力が先行クリープによって発達していたことを示している. 2 CFRPアングルプライ積層板の時間依存挙動:アングルプライ積層板[±θ]_<3s>の応力リラクセーション挙動は,プライ配向角θ=30,45,60°のいずれについても明瞭に現れる.リラクセーション応力は,全ひずみを一定に保持した後,短時間で飽和状態に漸近する.プライ配向角および一定保持する全ひずみの大きさにかかわらず,応力リラクセーションが開始応力に対してほぼ一定の割合で生じる.これらの特徴は一方向CFRPに対して行った応力リラクセーション試験の結果にも同様に認められた. 3 時間依存挙動の巨視力学的定式化:非可逆熱力学に基づく連続体内部変数理論を応用して,一般的な時間・速度依存形構成モデルを定式化した.提案した巨視力学的構成モデルは,完全な多軸形式を有し,広範囲の非線形粘塑性挙動と損傷挙動を含む一般化にも対応できる柔軟性を兼ね備えている.開発した時間・速度依存形構成モデルは,一方向CFRPのクリープ挙動と応力リラクセーション挙動を適度な精度で予測することができる.なお,開発した構成モデルは,特殊な場合としてGates-Sunモデルを包含する. 4 時間依存挙動の微視力学的定式化:複合材料の解析的均質化法とマトリックス材料の粘塑性モデルを組み合わせることによって一方向CFRPに対する多軸弾・粘塑性マイクロメカニックスモデルを構築し,その有効性を示した. 5 積層板の時間依存挙動に対する解析方法:一方向CFRPの構成モデルと古典積層理論を用いてCFRPアングルプライ積層板の高温引張挙動を解析した.この解析から,プライ配向角が小さい場合層間せん断応力の影響が強くなるため平面応力を仮定する古典積層理論では十分な予測精度の得られないことを明らかにした.この知見は,3次元均質化法と成果3,4を組み合わせることによってより精密な予測が得られる可能性の高いことを示唆している.
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