研究概要 |
膝蓋腱を含む膝伸展機構はスポーツ傷害の多発部位である。大腿四頭筋の牽引力によって誘起される膝蓋腱部での力学的状態は脛骨結節部の骨化度や膝蓋腱の力学的特性などが影響するため,年齢とともに傷害部位が変化する。スポーツでの負荷を考慮する際,衝撃荷重時の力学的検討が必要であるが,この伸展機構複合体における衝撃荷重の伝達機構は十分に解明されていない。そこで本研究では,骨化度の異なるブタ膝蓋腱部(膝蓋骨―膝蓋腱―脛骨結節)に対し衝撃引張試験を行うとともに,対応する力学モデルを構築して衝撃応答解析を行った。 試料には,脛骨結節部骨化度の異なる3群(体重約20kgf N=5,100kgf N=8,200kgf N=5)の新鮮なブタ後肢膝蓋腱部(膝蓋骨―膝蓋腱―脛骨結節)を用いた。衝撃引張試験はホプキンソン棒法衝撃試験装置を用いて室温で行った。大腿四頭筋による張力を想定し,pre-tensile load(100N,200N,300N,400N)を与えて実験を行った。力学モデル構築のためにX線写真画像から膝蓋腱部各部位の形状を測定した。これに加えて膝蓋腱の衝撃引張試験を行い膝蓋腱のヤング率を評価するとともに,pQCTを用いた骨密度の測定から膝蓋腱部の他の部位のヤング率を推定した。 骨化の進行に伴い衝撃荷重の透過率は低下した。3群ともにpre-tensile loadの増加に伴い衝撃荷重の透過率は高くなった。また,年齢とともに膝蓋腱のヤング率は高くなった。衝撃荷重の透過率の変化には,脛骨結節部の骨化度と膝蓋腱のヤング率とが影響していると考えられた。また,力学モデルによる解析の結果,脛骨結節部骨化点周囲でひずみが大きな部位は成長とともに変化し,これは臨床上の脛骨結節剥離骨折,骨端症,腱炎といった成長に伴う病態変化によく対応することが明らかにされた。
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