近い将来、ガスタービン用単結晶動・静翼のリサイクル、および、リコーティングの技術が必須になることは疑いないであろう。一方、単結晶Ni基超合金をはじめとするガスタービンの動・静翼材に塑性変形などの局所的損傷を受けた後、補修やリコーティングの一行程として再熱処理を加えると、何らかの形で予損傷領域を核とした変質域が生成され、強度特性を大きく変化させる恐れがあると予想される。しかし、これに関連する学的情報は、日本のみならず世界中において皆無に等しい。 このような背景に鑑み、本研究では、単結晶Ni基超合金が実機使用後にリサイクル処理やりコーティング処理を施された場合を想定し、その工程中に起こり得る局所的制御結晶の崩壊の可能性とその機構を探求した。また、それら変質域が単結晶Ni基超合金の高温疲労強度をはじめとする強度特性に及ぼす影響についても調査・検討した。 これまで得られた成果を要約すると、 (1) 単結晶Ni基超合金に局所的予ひずみを与えた後、再熱処理を加えると、予ひずみを与えた領域を中心に、細長くのびたγ′相と微細なγ′相を含むγ相で構成された扇形形状の変質域が生成する。さらに、この変質域は、再溶体化処理温度に依存して、新しい方位を有する組織へと遷移する。この一連の変質域は、(i)予ひずみによるひずみエネルギの蓄積、( )再加熱時のポリゴン化を伴なったひずみエネルギの開放、(ii)(i)の過程においても開放しきれなかったひずみエネルギを駆動力とする大傾角の新結晶粒の誕生と成長、の過程を経て生成・成長する。 (2) (1)のような挙動で生成された再結晶変質域は、本来、単結晶材には粒界強化元素が含まれていないため、単結晶Ni基超合金の高温引張強度、高温疲労強度に影響を及ぼす。すなわち、この変質域が形成されると、変質域内部や、非変質領域と変質領域の境界に高温疲労き裂が早期に発生し、そこをきわめて高い速度で進展する。 (3) 強度低下を招く変質域は、ひずみエネルギの開放を目的とする前熱処理を施すと、ある程度、その生成・成長を抑制することができる。
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