本研究では、単結晶Ni基超合金が実機使用後にリサイクル処理やリコーティング処理を施された場合を想定し、その工程中に起こり得る局所的制御結晶の崩壊、すなわち、変質域の生成挙動とその機構を調査および検討した。また、それら変質域が単結晶Ni基超合金の高温疲労強度をはじめとする強度特性に及ぼす影響についても調査・検討した。さらに、その影響を抑制する手法についても検討した。 (1) 単結晶Ni基超合金に室温で予ひずみを導入後、補修用回復熱処理を施すと、予ひずみを与えた領域を核として、粗大化したγ'析出相とγ相からなる変質域が形成される。この変質域は、γ'析出相のraftingとは明らかに異なり、また、以下に示すような種々の因子の影響を受けて生成、成長する。 (a)変質域は、回復熱処理の際の温度、時間に依存して生成、成長する。この挙動は、大まかには、熱処理温度が低いときには回復過程として、一方、それが高いときには再結晶過程として分類できたが、このように単純に分離できない側面も示す。前者から後者に移る一つの大きな引き金は、γ'析出相の固溶である。また、回復過程における変質域成長速度は、Johnson-Mehl形の式で良好に定式化できる。 (b)変質域は、与えられる非弾性ひずみがどのような結晶塑性学的すべりによって生じたかに依存して、生成されたりされなかったりする。そして、これらの変質域生成が、疲労損傷や熱疲労損傷を受けた試験片において実際に確認された。 (c)変質域の核生成と成長方向は、ひずみを与えた結晶面に依存して、著しい指向性を示す。この指向性には、結晶学的な方位の依存性が含まれるが、それのみではない。 (d)変質域の生成には、与えられるひずみが等しい場合、本合金凝固製造時におけるミクロ偏析の影響も大きい。 (2) 単結晶超合金中にいったん変質域が形成されると、高温疲労き裂はその部分を優先的に伝ぱし、疲労強度を著しく低下させる。したがって、単結晶動・静翼材のリコーティング、補修技術の開発には、これら変質層の抑制に関する研究が急務である。 (3) 超音波縦波の伝ぱ速度、減衰特性、および、表面波伝ぱの異方性を測定することにより、単結晶超合金内部に形成された変質域を非破壊的に検出できる。
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