本研究ではTiNi繊維を用いたインテリジェントマテリアルとポリウレタン系形状記憶ポリマー粒子を用いたものとを取り上げ、(i)TiNi繊維の形状記憶効果によるき裂閉鎖機構と(ii)剛性の温度変化、(iii)ポリマー粒子のガラス転移によって生じる剛性変化、の解析を行った。(i)では、TiNi繊維を固有ひずみを有する介在物としてモデル化し、繊維の形状記憶収縮によるき裂閉鎖機構を解析した結果、加熱・冷却過程におけるき裂の応力拡大係数の変化は実験結果と極めて良く一致する傾向を示した。また、繊維収縮後の応力拡大係数は繊維の収縮ひずみの増加につれて減少するという実験結果と同じ傾向が得られた。(ii)では加熱・冷却過程における剛性の変化を求めた結果、加熱過程では温度の増加につれて剛性が緩やかに増加した後に減少に転じ、オーステナイト逆変態開始点で最小値を示すことがわかった。また、最終的に常温に戻ったときには初期値よりも剛性が増加することがわかった。(iii)では、ゴム、ガラスおよびこれらの間の遷移状態にある形状記憶ポリマー粒子が樹脂母材中に混在している状態をモデル化し、ガラス転移点分布の違いによる剛性の温度変化を求めた。その結果、ガラス転移点分布が2モード分布の場合にはガラス転位点の温度差が30゜C以上あれば、全ての粒子がガラス状態あるいはゴム状態の場合以外に巨視的弾性係数が一定値を示す温度領域が存在し、その値はガラス転移点分布を調整することで変化することがわかった。また、ガラス転位点分布が一様分布の場合にはその温度幅を変化させることで温度上昇に伴う巨視的弾性係数の減少割合が調整できることがわかった。以上のことより、本解析手法によってTiNi繊維と形状記憶ポリマーを用いたインテリジェントマテリアルの解析が可能であり、材料設計に指針を与え得ることがわかった。
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