耐食性ドライコーティング膜の一種であるTiNは、美麗で硬度が高く、耐磨耗性は勿論のこと膜自体の耐食性も極めて優れている。しかし、膜内には様々な微小欠陥が存在し、特にピンホールと呼ばれる貫通型欠陥は環境遮蔽効果が少なく、素地金属の耐食性改善にはまだ多くの課題が残されている。そこで本研究では、イオンミキシング蒸着装置を用いてステンレス基板上TiN薄膜を成膜し、その組成・構造を調べるとともに、耐食性向上の観点から、ピンホール欠陥を抑制するための最適成膜条件について検討した. 1)常温で作製したTiN被覆材表面は膜厚に依存せず黒ずんだ黄金色であるが、基板を加熱しながら作製すると300℃で最も鮮やかな黄金色を呈する。また、いずれの被覆材表面にもピンホール欠陥が依存するが、その個数は極めて少なく、大部分は欠陥の存在しない平坦な膜であり、基板との密着性も優れている。 2)常温で作製したTiN薄膜の結晶配向性は、膜厚に依存せず<111>配向であるが、基板表面温度が上昇するにつれて<200>配向が強くなる傾向にある。また、基板表面温度300℃においては、膜厚が増加するにつれて<200>配向が強くなる傾向にあり、これらの原因として真空チャンバ内の残留不純物ガスが寄与しているものと考えられる。 3)作製されたTiN薄膜のXPS分析による組成比Ti/Nは1.1〜1.5とややTiリッチな膜である。また、TiN薄膜は結合エネルギーの化学シフトが認められ、化合物として薄膜を形成している。深さ方向のAES分析による組成分布は一様であり、均質なTiN薄膜が形成されている。TiN薄膜の硬度については、基板表面温度が上昇し、<200>配向が強くなるにしたがって硬くなる。 4)ピンホール欠陥面積率は、基板を常温よりもむしろ加熱して作製したTiN被覆材の方が低くなり、基板表面温度300℃で極小値の0.06%となる。また、常温で作製した膜厚1.5μm以上のTiN被覆材に発生した膜のはく離現象は、膜内部の残留圧縮応力によるものであり、基板を加熱しながら成膜することによって抑制することができる。これらのことから、基板を加熱して成膜することで、より耐食性の良い薄膜を作製することができると言える。
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