研究概要 |
レーザラマン分光法による応力評価に関して,ラマンスペクトルのピーク位置の変化量と結晶中の応力の関係を与える理論は提案されているが,その妥当性および適用性は明瞭でない.そこで本研究では,デバイスの主要基板材料であるシリコン単結晶について,ラマンスペクトルと応力状態の関係を理論的に導き,ラマンスペクトルのシフト量から応力成分を分離する可能性について理論と実験の両面から探った. (1) ラマンシフトと応力成分の関係(理論) 測定可能な光学フォノン振動数は最大で3つであるが,その内の2つ以上を求めることができれば応力成分の分離の可能性がでてくる.入射・散乱光の電場ベクトルの方向の組み合わせ(偏光配置)により,縮退の解けた3つの振動モードのそれぞれを選択的に測定できるか理論的に調べた.その結果,(100)面・後方散乱配置の場合については,偏光方向にかかわらずラマンシフトが面内主応力の和の関数であり応力の方向によらないことがわかった.すなわち,せん断応力成分を測定することは不可能であることがわかった.また,せん断応力成分は斜め入射により観測されるラマンピークに影響を及ぼすが,2つのラマンピークが重なるため,実際には計測は不可能と考えられる.(110)面・後方散乱配置については同じ応力状態でも偏光配置によってラマンシフトが異なることがわかった. (2) (100)面のラマンスペクトル計測即底面を{100},引帳応用方向をそれぞれ8<100>方向から0度,15度,30度,45度方向とする4種類のシリコン単結晶短冊形試験片を用意し,4〜5段階の引張応力を加えて,後方散乱配置・顕微ラマン分光法でラマンスペクトルを測定した.その結果,ラマンシフトは負荷方向に依存しておらず,理論結果に一致した結果がられた.
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