研究概要 |
塑性加工において最も支配的な境界潤滑領域における摩擦挙動の解明を試みた。圧延高速摩擦試験材を用いて、アルミニウム合金A3004を被加工材として、各種条件を変更した実験を行い、これらの因子の摩擦状態への影響および、素板圧延方向と加工方向との角度が摩擦挙動に及ぼす影響を明からにした。さらにしごき加工における薄肉化最適条件の検討を行い以下の結論を得た。 1)圧下率が摩擦係数(μ)に及ぼす影響は見られなかった。φ=0゜では、μが90゜の約1.5倍になった。加速速度を大きくするとφ=0゜、90゜ともμは減少し、両者の差も小さくなった。 2)潤滑油の粘度がμに及ぼす影響は、φ=0゜、45゜では粘度を大きくしてもほぼ一定の値を示す。90゜においては粘度を大きくするにつれてμも増加した。φ=0゜、45゜、90゜の順ではμは減少しており、φ=0゜では突起部の境界潤滑、90゜では微視的塑性流体潤滑になっていると思われる。45゜は0゜と90゜の中間的な状態であると思われる。 3)試料表面粗さを大きくするにしたがってμが増加する。また、粗さ0.1μmRaではどの条件においても摩擦係数はほぼ同じ値を取り、0.5、0.7μmRaでは潤滑油Cのφ=0゜、30゜、Aのφ=0゜、30゜の順で減少している。 以上のことをまとめると素板の圧延方向が及ぼす影響を小さくするためには、加工速度を大きく、潤滑油粘度を大きく、試料表面粗さを小さくすればよいことがわかった。 4)薄肉化のための試験装置として帯板U曲げしごき加工装置を作製した。パンチに作用する垂直力Npと摩擦力Fpを直接分離測定することによって、パンチ面の摩擦係数を測定し得る。パンチとダイス間距離を小さくすることによってしごき率を上げ、薄肉限界が求められる。 5)試料として無酸素銅板C1020Pを用い、摩擦条件因子と薄肉化条件の検討を行った。しごき率10%,20%,30%を任意に組み合わせ、試料に複数回のしごき加工を施した結果、薄肉化限界は加工プロセスに依存しない。潤滑油粘度の相違による摩擦係数の変化は、1回のしごき加工では見られないが、複数回のしごき加工では見られる。油の高粘度化に伴い摩擦係数は低くなる。しごき率や潤滑油を変えても破断直前の硬度は120〜130Hvの一定値をとる。いずれの条件においても加工後の試料表面に焼付き痕が見られない。 6)被加工材の中間焼鈍と、極圧性潤滑剤を用いることにより、さらなる薄肉化が可能である。
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