本研究で得られた成果は以下のとうりである。 1. 既に開発した「繰り込み変換分子動力学」によるシミュレーションでは、クラスターサイズよりスケールの小さい現象はシミュレートされない。そこでこれを可能とする為、「繰り込み変換分子動力学」で得られた結果の局部をズーミングして、再シミュレートする「逆繰り込み変換分子動力学」を開発した。さらに両者を統合して「繰り込み群分子動力学」とした。 2. 「繰り込み群分子動力学」により、シリコン単結晶を切削する時に現れる脆性・延性遷移現象のメカニズム解明に取り組んだ。脆性・延性遷移現象は、これまで材料内に先在欠陥が存在することを前提に説明されてきたが、シリコン単結晶内に存在する先在欠陥の密度は極端に少ないため、従来の理論では現象が説明できない。そこで“切削中に欠陥が創発する"との立場から、この欠陥創発プロセスの解明に焦点を絞った。 シミュレーションは、切り込み1ミクロンの切削を「繰り込み変換分子動力学」でまず行い、次にその結果に対し、工具刃先付近の挙動の詳細を「逆繰り込み変換分子動力学」で調べた。その結果、工具刃先後ろの仕上げ面直下にミクロの局部せん断応力場があり、さらにこの場所に工具刃先付近から絶えずAE波がやってきて、この波による動的な圧縮・引張り作用により問題の個所がせん断すベりを起こす事が判明した。このせん断すべりによって筋状のアモルファス領域が仕上げ面から材料内部に向かって形成され、さらにこの部分の強度が周りの結晶構造より弱い為に、その後にやってきたAE波の動的引張り応力によって瞬間的に微亀裂状の欠陥が生成される事が判明した。
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