本研究で開発した逆繰り込み変換MDを使って、切り込み1ミクロンでシリコン単結晶を切削する時の工具逃げ面下部をズーミングシミュレーションした。その結果、切削中、この部分に微き裂が生成される事が判明した。更に詳細に調べた結果、微き裂が生成される前に、この部分でミクロのせん断すべりが起きること、これによってこの部分に筋状のアモルファス領域が出来、其の後、ここをAE波が通過する時に、波に伴う動的引張り応力により、このアモルファス領域が引きちぎられて、微き裂が生成される事が分かった。また、一旦できた微き裂はそのまま残存する事が判明した。出来た微き裂の上は、AE波が最早通過できない為である。しかしこのように微き裂が出来ても、現実とは違って、それが進展してクラックにはならない。なぜなら逆RMDはRMDの結果を基にしており、もとになるRMDでクラックが発生しないからである。ここで改めて2つの可能性が浮かび上がった。1つは、出来た微き裂に雰囲気分子が侵入し、RMDにおけるクラスター間相互作用が変化する可能性である。事実、これにより相互作用が弱くなるとしてRMDを行うと、脆性モードになる事は、確認されている。2つめは、微き裂の生成自身によって、雰囲気分子が無くてもクラスター間相互作用が変化する可能性である。この場合にも、相互作用が弱くなる形に変化すれば、前述のようにクラックが進展する。目下、第2の可能性について理論的検討を行っており、これについては、申請中の課題で研究を進める予定である。
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