熱可塑性樹脂複合材料は、熱硬化性樹脂複合材料に比べて、破壊靭性が高い、耐衝撃性に富む、破損部の修理が容易、長期保存が簡単、成形サイクルが短い、リサイクルが容易など数多くの特徴を持っている。そのため、今後、各種の分野に使用されるようになると思われる。このような熱可塑性樹脂複合材料の一種として、最近、開発されたものに、ガラス繊維とポリプロピレン繊維の混合紡糸ストランド織物(Commingled fabric)がある。この成形材料は、ガラス繊維とポリプロピレン繊維が1本の繊維束の中にともに入っているので、樹脂のガラス繊維への含浸性が向上し、しかも繊維有率も60〜70%と高く、高強度で、信頼性の高い成形品が得られる。しかしこのような形態のクロスが開発されてから日が浅いために、有効な成形方法はまだ確立していない。さらに繊維織物の絞り成形においては、成形時にクロスの異方性の影響を受ける。すなわち、ガラス繊維は繊維軸方向にはほとんど伸びず、また繊維軸に45゚方向には、クロスはせん断変形を受け、縦糸と横糸が面内で回転を生じる。しかもそのせん断変形の量が大きいと、しわが発生することも問題になっている。そこでこの成形材料を用いて、プレスで深絞り成形するときに、金型形状が成形性に及ぼす影響について調べた。すなわち、しわを発生させずに、どれぐらいの深さまでしぼることができるか、またその最大絞り深さに影響を与える因子が何かについて詳細に調べた、さらにしわ発生の機構についても考察した。本研究により得られた主な結果は次の通りである。(1)成形材料の加熱温度が220℃、金型温度が100℃のときに、最も良好な成形品が得られる。(2)最大絞り深さはポンチ肩半径が減少するにつれて、減少する。(3)しわ発生は、繊維軸に対して0゚方向では、繊維の座屈により、45゚方向では、せん断変形により生じる。
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