本年度においては、Subgrid-scale(SGS)エネルギーの伝達機構と乱流場中に存在する秩序的な渦構造との相関を解析し、この視点からSGSモデルの検討を行った。そのために、Navier-Stokes方程式の厳密解であるBurgers' vortex tubeとlayerモデルに基づいて秩序構造の分類法を開発し、構造を渦管(tube core)と2種類の渦層(flat sheetとcylindrical sheet)の3種類に分類する方法を提案した。次に、一様等方性乱流のdirect numerical simulation(DNS)データを256^3の格子点を用いて生成し、高レイノルズ数における検証を行った。このデータの生成においては、外力によりエネルギーを定常的に注入する場合としない場合を対象とした。このデータを用いて、提案した分類法の検証を行い、この方法により、特性の明確に異なる3領域が抽出されることを示した。 さらに、この分類法を用いて、乱流エネルギーの散逸およびlarge-eddy simulation(LES)におけるgrid scaleエネルギーのSGSへの伝達機構と秩序構造との相関を解析し、散逸とgrid scaleからSGSへのエネルギーの順方向の伝達が、主としてflat sheetを介して行われることを示した。また、Tube core領域では渦のcompressionが頻繁に発生すること、ならびに、逆方向のgrid scaleエネルギーの伝達が、主として、このcompressionの掛かったtube core領域で起きる事を示した。また、何れの領域においても、stretchingの最もある方向と垂直なazimuthal方向の渦度の顕著な生成が生じることを示した。また、外力による注入が小スケールでなされる場合、顕著な逆方向のエネルギー伝達が起きることが示された。 さらに、こうした伝達機構にたいするSGSモデルの近似精度を検証し、定数係数のSmagorinskyモデルが順方向の伝達に関しては高い近似精度を有すること、Dynamic Smagorinskyモデル(DSM)では、strainの効果が削減されるため、散逸機構の近似精度が低いことを示した。これらの欠点は、スケール相似則モデルの精度を上げることにより、改善できるが、その極限として得られるdefilteredモデルでは散逸が不十分であり、SGS estimationモデルのような高精度化が必要なことを示した。次に、これらのSGSモデルを実際のLES計算において検証した。Smagorinskyモデルは散逸機構の近似精度は高いものの散逸の見積が大きすぎること、逆方向の伝達が表現できないためazimuthal方向の渦度の生成といった渦の発展過程を正確に予測できないこと、非等方な渦粘性係数モデルではこの発展過程の予測精度が改善されること、DSMではtube core領域の寄与の過剰評価が生じ、dynamic procedureを用いてモデル・パラメータ値を決定したが故にSmagorinskyモデルの長所を打ち消し、散逸機構が厳密値と相関の低いものになることを示した。
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