本研究は境界層の遷移機構の解明、特に層流境界層と乱流境界層中に依存する秩序渦構造に関する統一的なモデルの構築を目的とする。低乱風洞中の平板上に形成した層流境界層中に2個の乱流斑点を形成し、その相互干渉が乱流斑点の内部構造や境界層の乱流遷移機構に及ぼす影響を多チャンネルI型およびX型熱線プローブを用いて解明し、以下の結論を得た。 1.斑点の下層部は流れ方向に伸びた多数の筋状構造で構成されており、加速領域と減速領域が千鳥状に並んでいる。すなわち、斑点内部には互いに逆回転する縦渦対が存在し、それらはヘアピン渦(馬蹄形渦)の脚部を構成している。 2.斑点の成長はヘアピン渦の個数が斑点内部で増加することによりもたらされる。その中で斑点先端部の渦構造が最も古く、新たな渦構造は翼端部および後縁部で形成される。 3.二つの斑点が融合する時、各斑点の翼端部に位置する縦渦同士の相互干渉により融合部に強い減速領域が形成され、そこでは強い低速上昇流が誘起される。この領域は単独斑点のものよりも上流側まで発達する。 4.斑点の上部にはヘアピン渦の頭部に相当する横渦が流れ方向に連なって存在する。二つの斑点が融合する場合、単独斑点と比較して、その融合部にはより強い構造性を示す多数の横渦構造が形成され、その頭部は上方へ成長し、馬蹄形渦に発達する。横渦構造の流れ方向間隔は十分に発達した乱流境界層中に存在する乱流バルジの平均間隔にほぼ等しい。 5.斑点融合部で形成された馬蹄形渦は融合斑点の流下とともに発達し、下流の乱流境界層中の大規模秩序運動である乱流バルジへ発達する可能性がある。 6.これらの研究成果は、境界層遷移の最終過程に生じる乱流斑点内の相互干渉が下流の乱流境界層の特性や、そこでの秩序渦構造の発生・発達と強い関連を有することを示す。
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