研究概要 |
境界が先端を持つと,その付近で物理量の変化が非常に激しくなる.このため,気体の圧力が常圧に近いときにも,気体の平均自由行程が物理量の変化の尺度に比べて無視できなくなり,先端近傍で気体の希薄化効果による現象が現れる.このような先端効果は,境界が滑らかであっても境界条件が不連続的に変化する場合にも現れる.そこで,本年度には後者の場合も対象に含めて研究を行った.具体的内容は以下の通りである. 1.境界に先端や境界条件の不連続点があると,それらを起点として,気体分子の速度分布関数における不連続が気体中をあらゆる方向に伝播する.先端効果を正しく理解するには,この不連続の伝播を数学的に厳密に理解しておく必要がある.しかし,気体の運動を記述するボルツマン方程式は非常に複雑で,そのモデル方程式に対してすら厳密な数学理論の展開は容易ではない.そこで,ボルツマン方程式の特徴を備えた簡単な輸送方程式を取り上げ,これに対して境界条件における特異性が媒質中に伝わる様子を数学的に解明した. 2.閉じた容器内の希薄気体を考え,境界の温度分布が不連続である場合に,それによって容器内に誘起される気体の流れを,モデルボルツマン方程式に基づく精密な数値解析(差分解析)により明らかにした.特に,気体が常圧(連続流の極限)に近づくにつれて,流速は一定値に近づくが,流れの領域は温度の不連続点一点に収束していき,極限では大域的流れが消滅することを明らかにした.さらに,境界温度の不連続によって生じる速度分布関数の不連続が気体中をどのように伝わるかを解明した. 3.壁の凹凸と周期的温度分布の効果によって管内に誘起される希薄気体の一方向流れを,モンテカルロ法を用いた数値解析によって調べ,流れの様子とそれのもつポンプ効果を明らかにした.
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