研究概要 |
昨年までに,ある液体界面と結晶界面のモデルが形状変動の2次相転移を持つことを確かめ,この結果は論文(欧文)として発表している。今年度は,これに引き続き,標準的な液体界面と結晶界面のモデルについて,MC法とランジュバン法によって研究し,2次相転移を確認した。特に,この液体界面モデルは,従来いくつかのグループで,素粒子モデルの剛性弦モデルとして研究され,その結果2次相転移が明確には確認されていなかったものと同じものである。 一方,赤血球の壁や水中での界面活性剤2重膜などは両親媒性分子(水を好む分子と避ける分子からなる)あるいは脂質分子からできている膜状の物質で,様々な分野で研究されているが,これらの物質は「膜弾性」(表面張力と曲げ剛性)と「液体性」(分子の自由運動)を持つことも知られている。従って,我々の研究対象である液体界面モデルは抽象的なものではなく,正にこれら現実の液膜をモデル化したものであることが明白になった。本研究は,その現実の液膜に2次相転移という臨界現象が存在することを,数値的な結果に基づいて,主張するものである。これは,速報の論文として欧文誌に現在投稿中である。 また,温度が下がることで液膜における分子の自由運動が無くなったものは「ゲル状態の膜」として現実に存在するが,これは本研究における「結晶界面モデル」に対応する。筆者はこの結晶膜に対しても,2次相転移の存在をMC法で確かめた。この結晶界面では2次相転移の存在は,既に数値的には確認されているが,MC法による液膜での結果と比較する意味で詳細な計算過程や結果も含めて,論文(欧文)に投稿予定である。また,筆者のMC計算が信頼できるものであることを示すために,結晶膜モデルに対しMC法以外にランジュバン法によっても,まだ少しの計算が残っているが,相転移を確認した。この結果も論文(欧文)に投稿予定である。 本研究の結論を短く表現すれば「表面張力と曲げ剛性という「膜弾性」を持つ脂質膜には,分子の自由運動という「液体性」の有無に関わらず,形状変動の2次相転移が存在する」ということである。
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