研究概要 |
紙を生成する際に,溶解したパルプを含む液体を移動する長網に乗せ,紙を漉く工程がある.この工程は抄紙プロセスと呼ばれている.水は網目を通過して,パルプは長網の網目を通過できずに長網の上に残る.段ボール紙のような厚い紙を漉く場合には,抄紙工程を何度もくり返し,次第にパルプの層を厚くしていく.その際に,長網が移動しながら振動する現象が現れた.この現象が,どのようなメカニズムで発生しているのか分からない状態であった. 本研究では,この長網が振動するメカニズムの解明,更に,その具体的な防振対策を得ることを目的として研究を行った. 網を通過する水量と流入流量の関係を実験的に調べ,その結果を理論解析における,長網の振動方程式を解く際に考慮し,実験と解析の定量的な比較検討を行い,振動発生のメカニズムの解明,支配因子の解明を行う.さらに,防振の観点から,振動発生限界を明らかにし,設計指針をまとめることを目的とした. 初めに主として実験的に振動現象の観察と振動発生に及ぼす要因の特定を行った.ついで,理論的な考察を行い,合わせて実験との比較検討から,振動発生メカニズムを明らかにすることをめざした. この現象に関する研究は内外ともに見当たらない.少なくとも,ある程度の公の雑誌などには報告されていない現象であるが,抄紙プロセスは他の分野と同様に,製紙速度の高速化が求められており,長網の走行速度の高速化,あるいは,パルプの高密度化などが進められており,この傾向は今後も続くものと思われる.今回研究の対象としている現象も高速化を進めて行く過程で,ますます,現れてくる現象と考えられ,その意味からもメカニズムの解明は,抄紙プロセスの高速度化が図られることを意味し,その工業的および工学的意義は非常に大きく,特に,製紙機械の分野にとって非常に寄与するところが大きい.
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