申請の研究では、これまでに申請者が行った研究に基づき、構造物に発生するダメージを早期に検出する手法の開発に取り組んだ。検出のための手法としては、加振することによって構造物を振動させ、その状態をビデオカメラで測定して構造物各部の振動状態を精度よく求め、逆問題として構造物各部の状態を求めてダメージの発生した箇所とその程度を推定した。 研究ではまず、様々な支持条件により支えられたはり(梁)の一部に欠陥がある状態を想定し、その欠陥の位置と程度を求めた。これまでに行った研究から、片持ちはりの場合には、(1)画像計測によっても精度よくはりの振動状態を測定可能なこと、(2)はりの密度・縦弾性係数を精度よく同定することができ、欠陥の検知が可能であることが分かっているので、今回の研究では両端支持はりや中央部にも支持があるはり等への適用を目指した。手法としては、加振されたはりの振動状態をビデオカメラを用いた画像計測によって求め、はりの各部の密度・縦弾性係数を同定することによって欠陥を探知した。はりの形状の測定においては、スプライン関数の節点を最適に配置することによって測定精度の向上をはかった。 さらに、欠陥のあるはりに対しては、適用範囲限定繰返しSA法を用いて欠陥の位置と大きさを同定する手法を提案してきたが、より実用的な構造物に適用するために、SA法の計算時間を短縮することが課題として残っていた。これに対しては、適用範囲限定SAの「有限要素法を用いてたわみを求める」というアルゴリズムに、これまでの研究ではCM形モデル法と形状関数を組み合わせる手法を用いていたので、本研究では、これに代わる方法として動剛性マトリクス法と境界条件を組み合わせた手法を用いることで計算時間の大幅な短縮を図ることができた。 次に、ラーメン構造物の部材の材料定数(密度、縦弾性係数)を同定する問題に取り組んだ。この場合も、スプライン関数の節点を最適に配置する手法を用いることによって、構造物の形状を精度よく求めることができ、チコノフの適切化法を応用した手法によって部材の材料定数をうまく同定することができた。また、接合部が正常かどうかを判断するパラメータとして半剛性率を提案した。測定データに含まれる量子化誤差を節点の最適配置によるスプライン近似で低減し、逆問題の不安定性を緩和する種々の手法を用いて半剛性率を同定することで、接合部の損傷を定量的に求めることができた。
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