要素の集まりとしてのシステムの安全性はますます重要になりつつあるが、事故は執拗なまでに繰り返されている。事故原因は、設計、製造、施工、検査、運転、保守段階に生じる異常、すなわち正常からの逸脱の見落としによることが大きい。見落としの主たる要因は、人間が逸脱を想起するための連想ツールの欠如にあると考え、逸脱連想ツールを開発し、システムライフサイクルでの見落としを防ぐのが研究目的である。 平成10年度ではシステムを構成する様々な対象を体系化し、各対象とそこに生じ得る逸脱とを連想的に結びつけた。対象は様々な側面をもっているので、一意的な分類はできない。そこで、対象の諸側面を表すため、複数のラベルを付けた。たとえば扇風機を対象としたとき、羽根に「回転部」というラベルを付けた。このラベルから「回転が止まる」という異常はすぐに想起される。しかし「回転数の減少」までは、直ちには想起されない。回転数は「回転部」というラベルの属性と考えられるので、対象にラベルを付けた場合には、ラベルの属性まで考えることにした。ラベルとしては、回転部、並進部、開閉部などの35種類を取り上げた。ラベル固有の属性を考えるとともに、属性の一般的タイプとして「使用環境」、「負荷」、「機能」、「材料」を導入した。ラベル「回転部」の「回転数」は固有の属性であり、「気温」は「使用環境」という一般属性の例である。また、ラベル「回転部」は「回す」という「機能」を属性としてもち、「回らない」という逸脱が連想される。機能の洗い出しには、価値工学を用いた。最後に、ラベル付け、属性の付与、異常の連想、これらを行うための計算機インタフェースを、ビジュアルベーシック言語により試作した。
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