顎関節症は、上下顎骨の位置関係が正常状態からずれて生じる疾患であり、その診断・治療には顎運動を患者毎に正確に把握することが重要である。しかし、臨床診断では2次元的な顎運動表示法に頼っており、運動を十分に把握できていないのが現状である。そこで本研究では、顎運動を3次元的に捉えることのできる表示システムを開発することを目指した。 平成10年度は、X線3D-CT画像データから下顎骨の個体別有限要素モデルを作成するソフトウェアを開発し、これを用いて下顎骨表面形状を小さな三角形で構成された多面体で立体的に表示する手法を提案した。一方、顎運動データは、上顎骨に対する下顎骨の相対変位をデジタル量で計測可能な装置を用いて測定した。これらのデータを用いて上顎骨と下顎骨の相対位置を計算し、顎運動の様子をアニメーションとして表示するシステムをパーソナルコンピュータ上に構築した。 平成11年度は、顎関節部の運動軌跡の速度、加速度を表示し、顎関節症との関係を考察した。また、咬合時に下顎骨に生じる応力状態を解析し、顎関節症の原因を調べる際の基礎データとして利用できるようにした。一方、昨年度までの表示システムでは、一つの方向からの顎運動を表示するためには数十枚の画像を作成する必要があり、高性能のパーソナルコンピュータを使用しても数分の時間がかかるという欠点があった。そこで、OpenGLを用いた画像プログラミングを用いて、顎運動をほぼリアルタイムで画面表示できるようにした。これにより、任意の方向からの顎運動を即座に観察できるようになった。
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