研究概要 |
本研究は,すべり送りねじを用いた位置決め機構に意図的に線形的な弾性変換機能を付加することで,位置決め性能を飛躍的に改善する方法を提案し,ナノメータレベルの超精密位置決めに対する本方法の効果と問題点を実験的に詳しく検証するとともに,本機構に適した制御方法を探索することを目的とする.本年度はその初年度として,弾性要素の組込みを目的とした位置決め実験システムを新たに構成し,その基本特性の概略を実験的に明らかにすることを目標とした. まずストローク200mmの直動位置決め機構を設計製作した.送りねじは予圧を任意に設定可能なダブルナットの台形ねじとし,これを定格出力130WのDCサーボモータで駆動する.位置検出器としてレーザ測長システム(分解能0.6nm)を取り付け,ねじ軸-ナット系の伝達トルクおよび伝達力を検出するためのロードセル(動ひずみ計を使用)を組み込み可能としている.次に電流制御によってモータトルクを徐々に増減し,ねじ軸-ナット間の静・動摩擦特性を測定した.テーブル変位と伝達トルクの関係はクーロン摩擦特性を示し,すべり送りねじの予圧設定トルクにほぼ等しい0.05Nmでねじ軸-ナット間の巨視的な回転が発生することを確認した. 以上の知見をもとに,ねじ軸-ナット間の静止摩擦トルクを軸方向の直動変位に変換する弾性変換要素を設計製作した.円弧ヒンジを円筒の外周に配置し,総合的な剛性が0.1Nm/μmとなるように形状を決定した.製作した弾性要素を位置決め機構のナットとテーブル間に組み込み,準静的な応答を測定したところ,ほぼ設計値通りの剛性と良好な線形特性が得られた.次年度では,弾性要素の特性を詳細に測定するとともに,本システムによる位置決め実験を系統的に行い,最適な制御方法と位置決め精度の限界を追求する.
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