研究概要 |
ヒトの触覚情報処理の機構を解明してソフトウェアとしてロボットの計測制御系に組み入れることができれば,ロボットのパフォーマンスを飛躍的に向上することができる.本研究では,ロボット把握力制御を向上するために,ヒトの滑り感覚の認識機構を解明することを目的としている.昨年度では,一定の滑り力を呈示できる滑り覚呈示装置の開発と,滑り覚の閾値を計測するためのソフトウェアを開発した.昨年度に引き続き本年度では,滑り覚呈示装置が呈示する滑り力の制御方式を改良するとともに,把握面の種類を三種類に増加するなど実験精度を向上させた.本年度の成果を以下に要約する. (1)昨年度開発した装置では,滑り方向の力だけでなく,モーメントまでプローブに発生していたため,呈示された滑り力を被験者は正確に判定できなかった.これを改良するために,力覚センサの取り付け部分に新しく板バネを取り付ける改良を施した. (2)重力と摩擦力に影響を受けない力制御を実現するために,力覚センサが検出した滑り力にしたがってDCサーボモータの速度司令値を調整する制御方式を採用するよう改良した. (3)被験者の人数を6人から8人に増加してより精度の高い実験を行った結果,滑り力が2N〜5Nの範囲ではWeber比は一定とならず,滑り力の増加にともなって減少することがわかった.このため,この範囲の滑り力では十分大きいとはいえないことがわかった. (4)12μmの研磨粉を塗布した研磨紙,30μmの研磨粉を塗布した研磨紙,平滑面の三種類を把握させる実験を行った結果,12μmと30μmの研磨紙のWeber比はほぼ一致した.また,平滑面のWeber比と研磨紙のWeber比を比較したところ,平滑面の方が大きいWeber比を得た.これらの事実により,平面の摩擦係数が小さい方が滑り力の認識精度が向上するものの,摩擦係数があるレベル以上になると認識精度は飽和することがわかった.
|