磁壁のカオス運動に関する実験結果と非線形スピン動力学モデルによるシミュレーション結果とを比較した。磁壁は、外部磁界の大きさと周波数により、一つの束縛ポテンシャル内においても、また複数のポテンシャル間のいずれでも、不規則で複雑なカオス運動を行う。シミュレーションにおいても同様な運動が再現できた。しかし、実際の試料では、複数の磁壁が存在する事と試料の大きさが有限であるためのエッジ効果が運動に影響する。したがって、運動の時系列に関する実験とシミュレーション結果の定量的な一致に関する十分な精度を得るため、上記の点を考慮した更なるモデルの改善が必要であることがわかった。 磁性体の磁気損失とカオス運動については、規則運動と比較してカオス運動の方の損失が大きい場合と小さい場合の二通りある事がわかった。すなわち、外部磁界の周波数を増加させていった場合、規則運動から間欠ルートによってカオス運動になるときは、カオス運動の方が損失が大きくなる。一方、さらに外部磁界の周波数を増加させていった場合、カオス運動が周期性の窓と呼ばれる規則運動領域に入り、規則運動状態のほうが損失が大きくなる。この規則性の窓の領域では、外部磁界の周波数増大とともに周期倍分岐が起きて、やがてまたカオス運動となる。この時は、カオス運動の方が、損失が小さくなる。 このような複雑な損失現象の原因を明らかにするため、カオス状態の時のリターンマップを作成し、位相空間での固定点の分布を調べた。この結果を用いて、磁壁運動をOGY法により制御し損失の分析を行い、損失の低減方法に関して、一定の見通しが得られた。 これらの成果を第8回3M-Intermag合同国際会議で発表し、この分野の世界的な権威者であるP.E.Wigen教授や研究者と討議して、世界的な視野からの評価を受けた。
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