研究概要 |
有機材料は分子レベルでの設計が行えるため,高効率な非線形光学材料の実現が期待されている。位相整合条件が成り立つとすると,非線形光学材料へのレーザ光入力に対する出力の二次,三次高調波発生が膜厚の二乗に比例することから,大きな単結晶を作製することが重要である。本研究では,分子線エピタキシー(MBE)装置を用いて,蒸着時間,熱処理時間を変化させ,大きなバナジルフタロシアニン(VOPc)単結晶を作製し,その結晶評価と非線形光学特性を検討した。 蒸着分子には,バナジルフタロシアニン(VOPc)分子を,基板材料には,KBrを用いた。作製したVOPc単結晶の結晶形態をエリプソメータ,走査型電子顕微鏡(SEM),可視・紫外光電分光光度計(VIS・UV),反射高速電子線回析(RHEED)により検討した。エリプソメータにより,VOPc単結晶の屈折率,膜厚を測定した。VOPc単結晶の非線形光学特性については,メーカー・フリンジ法による測定結果から検討した。さらに,その結果からエリプソメータにより測定された屈折率から,位相整合条件を検討した。 熱処理を行うことにより,大形のVOPc単結晶を作製することに成功した。さらに,VOPc薄膜の膜厚が64nm以上ではエピタキシー成長しないことが報告されていたが,本研究により,KBr基板上に作製されたVOPc単結晶の膜厚が64nm以上でもエピタキシー成長すること,位相整合条件が成立することを示した。これまで報告されたVOPc単結晶の三次非線形光学感受率χ^<(3)>に比し,本研究で作製されたVOPc単結晶が約5倍になることを示した。χ^<(3)>値は約1.3×10^<-9>esuである。VOPc単結晶のサイズを12.5×12.5×0.16um^3に成長させることに成功した。本研究により作製されたVOPc単結晶とそのχ^<(3)>値により,光コンピュータ用の光スイッチング,RAM,ROM,CPU等の光デバイス作製への道を開いた。
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