本研究では、分子線エピタキシー(MBE)法により作製されたVOPc膜へ有機ガス処理を施すことにより、厚膜のミスフィットの解消を検討した。作製されたVOPc膜の有機ガス処理前におけるVIS/UVスペクトルがQバンド帯領域の波長780nm付近に吸収ピークを示すことから、製膜されたVOPc膜が擬似エピタキシー成長した構造であることを示した。有機ガス処理後では、処理前での波長780nm付近のピークが波長810nm付近へピークシフトしていることから、VOPc膜が擬似エピタキシー成長からエピタキシー成長した構造へ相転移したことを示した。有機ガス処理前における試料の走査型電子顕微鏡(SEM)像から、島状結晶によってVOPc膜の表面が形成されていること、膜表面に乱れが存在することから、ミスフィットによって生じた島状結晶内の歪みの影響によるものであることを指摘した。有機ガス処理後におけるSEM像から、VOPc膜の表面が平滑であること、連続膜となっていることから、有機ガス処理によりKBr基板上のVOPc分子が移動し、ミスフィットによる膜中の歪みが解消することを示した。この手法を用いて、膜厚96nm、面積25mm^2のVOPc膜をエピタキシー成長させることに成功した。近年、有機非線形光学膜の作製、評価および応用に関する研究は国の内外を問わず、注目をあび、大いに研究が進められているが、エピタキシー法により作製された大形単結晶と非線形光学特性の関係については、ほとんど検討されていないのが現状である。本研究が世界的にみても光ICの研究分野において、最先端の研究であることを確信している。 本研究の今後の課題としては、エピタキシー成長した大形単結晶を用いて、光スイッチング、メモリ、光双安定特性の実験を急ぐ予定である。
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