本研究は、ナノメートルサイズの微細な金属粒子(ナノクラスター)から成る島状金属薄膜の特異な光学特性(共鳴吸収特性、光学異方性、等)を利用した新奇で高性能な光デバイスを実現することにある。本年度は、特に(1)プリズム型波長合・分波器、(2)引き延ばし法による超薄型偏光フィルム、(3)追記型光ディスクメモリについて、理論検討・試作実験を行い、高性能なデバイスの実現を目指した。以下に、その各々について得られた成果の概要を示す。 先ず、プリズム型波長合・分波器については、島状銀薄膜とガラス薄膜の交互多層膜を2つの直角プリズムに挟み込んだ構造の素子について理論的検討を行った。金属粒子の形状や密度、大きさが一様な薄膜を用いた場合、可視から近赤外領域で100ナノメートル程度の帯域の素子が実現可能で、また、一般に良く用いられている誘電体交互多層膜に比べ、より偏光依存性が小さな素子が実現できることが示された。また、原理確認のための素子の試作実験も行った。 超薄型偏光フィルムについては、これまで波長1300ナノメートル用の素子で消光比35dB以上の実用レベルの素子の開発に成功しているが、今年度は、原理的に挿入損失が大きくなるため良い特性の素子が製作困難であった波長800ナノメートル用の素子の試作を試み、同様に消光比35dB以上の素子の実現に成功した。また、これまで試作された素子の測定された光学特性と素子を提案した時に理論的に予測された特性との間に定量的な差が大きかったが、その原因について検討し、実験結果をほぼ説明することができた。 最後に、追記型光ディスクへの応用については、従来用いてきた島状銀薄膜に10から30%程度の銀を添加することにより、長期安定性に優れた記録膜が得られることを実験的に確認した。
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