研究概要 |
本研究では,多様な先験情報を柔軟に援用しながら“信号処理結果の最適性"を保証する新しい“集合論的信号推定法"としてヒルベルト空間で定義された非拡大写像族T_i(i∈I)の共通不動点集合F:=∩_<i∈I>Fix(T_i)上で凸関数Θの最小化を実現するHybrid Steepest Descent Methodを提案している。本手法は、これまで実現が困難視されてきた(1)“凸集合族S_i(i∈I)が充足不能(S:=∩_<i∈I>S_i=φ)な場合には,有限個の集合Iに対して,Sの最良近似点集合(S_0上で集合S_i(i∈I\{0})への距離の2乗和を最小とする点の集合)でΘを最小化する並列算法",(2)“凸集合族S_i(i∈I)が充足可能(S:=∩_<i∈I>S_i≠φ)な場合には,可算無限個の集合Iに対して,S上でΘを最小化する超並列算法"の具体的な構成法を与えており、多くの信号処理問題を解決する汎用ツールとなることが期待されている。具体的には、これまで未解決であった以下の諸問題が、本手法を利用することによって初めて解決されている。 (a) 凸制約一般化逆写像の逐次最良近似問題:この問題は、多くの信号画像推定問題を統一的に定式化する極めて重要な問題であるが、これまで、強収束性を保証する具体的な算法は知られていなかった。本研究では、Hybrid Steepest Descent Methodによって、この問題が直ちに解決されることを明らかにしている。 (b) 最大許容リップル条件を満たす多次元ディジタルフィルタの最小2乗設計問題:遮断域のスペクトルのピークを許容値以下に抑えながら、そのエネルギーをも最小化する最適フィルタがHybrid SteepestDescent Methodの適用によって、直ちに設計できることを示している。本手法は、完全再構成条件を満たす直線位相フィルタバンクの設計問題にも同様に応用可能である。 (c) ブラインド最適画像復元問題:画像信号値の非負性と背景画像値のみを本質的な先験情報とし、劣化画像から真の画像を推定するブラインド画像復元問題は、劣化要因の同定が困難である生体画像処理や宇宙画像処理の分野で極めて重要である。本研究では、この問題を集合論的信号推定問題として定式化し、優れた画像復元性能を実現する最適復元フィルタが、Hybrid Steepest Descent Methodによって直ちに構成できることを示している。 (d) 入力に最も近い記憶パターンを想起する連想記憶ニューラルネットワークの構成問題:ホップフィールド型のニューラルネットワークが、連想記憶システムの機能を実現する現象はよく知られているが、入力から最も近い記憶パターンを想起するニューラルネットワークの構成問題は未解決であった。本研究では、Hybrid Steepest Descent Methodの動作を実現するネットワーク構成によって、この問題が解決されることを示している。
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