研究概要 |
画像や音声等のメディア情報処理においては,マルコフ性を考慮することが不可欠である.マルコフモデルを用いた多くのメディア処理では,直接観測される観測過程の下に,直接的には見えない隠れ過程の存在を仮定する.このような処理では,(1)隠れ過程や観測過程の確率密度関数やパラメータ推定,(2)モデルによって画像や音声が生成される確率の計算,(3)隠れ過程の推定等が必要となる.因果的マルコフモデルでは,このような推定や確率計算のための効率の良いアルゴリズムが既に提案されているが,非因果的マルコフモデルに対してはまだない.本研究では,隠れ過程に平均場近似を適用することによって,非因果的マルコフモデルに対する高能率な計算アルゴリズムを提案した.提案法のポイントは,平均場を用いることによって,全体の隠れ過程や観測過程の確率を局所確率の積に分解できることにある.隠れ過程全体の事後確率も局所事後確率の積に分解できる.全ての隠れ状態に対する局所事後確率から構成される局所事後確率ベクトルを,具体的な平均場として利用できることを示した.実際に,非因果的マルコフモデルであるマルコフ確率場(MRF)モデルを階層化した階層的MRFを画像モデルとして用いた,教師なし画像セグメンテーションに提案法を適用した.(1)のパラメータ推定は,不完全データによる最ゆう推定法であるEMアルゴリズムによって行われる.そこでの,隠れ過程の事後確率を用いた期待値計算における計算困難性が,平均場近似によって回避できた.また,(3)の隠れ過程の推定精度の向上,すなわち画像セグメンテーション精度の向上が確認できた.
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