線形フィルタは、フィルタの設計・解析・実行の容易さから種々の信号処理技術の発展に大きく寄与してきた。しかしながら、飽和現象等を生じるシステムを同定する際には、線形フィルタではずしも良好な特性が得られていないのが実状である。このような問題に対処するには、非線形特性を考慮し得る非線形フィルタを導入しなければならない。 本研究の目的は、飽和現象等を生じる非線形システムの同定をテイラー級数の一般化として知られているボルテラ級数展開からなるボルテラフィルタにより行い、また、同フィルタの適応アルゴリズムの高速化を、入力信号を直交化し得るフィルタとして格子形フィルタを構築すると共に、同フィルタをボルテラフィルタに結合することにより行うことにある。 まず、2次元信号を対象とした低係数感度特性、高速演算性、次数可変等の特性を有する2次元格子形フィルタを構築し、その成果の一部を電子情報通信学会論文誌および国際学会で報告した。 次に、非線形特性を考慮し得る非線形フィルタとして、ボルテラ級数展開からなるボルテラフィルタを構築した。同フィルタの有効性は誤差曲面が単峰性で大域的収束特性が保証されている点にある。また、同フィルタの入力信号部部分に2次元格子形フィルタを挿入することにより、すなち、ボルテラフィルタの入力信号を直交化することにより、高速収束特性を持つ非線形フィルタを構築した。なお、その成果の一部を国際学会で報告した。
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