署名筆記時のタブレット情報を利用した筆者照合に関して以下の項目の検討を行なった。なお、署名文字は日本語の横書きとし、タブレット上の指定枠内に記入した。 ・筆者照合に適した特徴量の検討 高精細タブレットが出力する、ペン先の位置、筆圧、ペンの方位、高度等の情報の中から筆者照合に適した特徴量の検討を行なった。被験者18人に対し、各特徴量を用いた照合実験を行なった。この際、照合判定の閾値は、本人受理率(以後、受理率)と詐称者棄却率(棄却率)が同じになるように決めた。受理率/棄却率は、ペン先の位置:86.9%、筆圧:74.8%、ペンの傾き:91.3%となり、ペンの傾きが照合に有効であることが分かった。 ・偽筆に対する棄却率の検討 故意に筆跡を真似た偽筆データに対し、偽筆者棄却率の検討を行なった。被験者21人に対し評価実験を行なったところ、棄却率は、ペン先の位置:75.3%、筆圧:67.0%、ペンの傾き:92.7%となった。ペンの傾きは模倣に対し、優れた特性を示すことが分かった。 ・経時変化に対する棄却率の検討 同様に、10週間にわたる経時変化に対する検討を行なった。ペン先の位置や筆圧は10%以上棄却率が下がるのに対し、ペンの傾きは5%以内の低下となり、経時変化に対し優れた耐性を有することが分かった。 ・マスキング照合法による棄却率の改善 本人登録データを複数用意し、データ間で分散が大きい時間をマスクする等の処理を施した。これにより、棄却率が3.4%改善された。 ・照合閾値の動的設定法の検討 照合閾値を事後的に決定するのではなく、個人毎に予測設定する方法を検討した。本人登録データの平均と標準偏差を用いた閾値予測法を検討した結果、受理率は96.1%、棄却率は84.3%となった。
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