研究概要 |
本年度は,主に生体物質識別センサ(BDS)の作製と数種類の酵素反応熱に対する特性評価を行った.BDSはFe,Mn,Zn,Ni等の遷移金属を真空蒸着法を用いて基板上に順次蒸着し金属多層膜を形成後,高温アニーリングを施すことで作製される薄膜型センサデバイスである.BDSの電気的特性は金属材料成分比やアニーリング条件等に影響されるが,Fe-Mn-ZnおよびFe-Mn-Ni金属多層膜において,アニーリング温度,アニーリング時間.雰囲気を適宜調節して作製されたBDSは,酵素の触媒作用に伴う数kJ/mol程度のエンタルピー変化量に十分対応できる感度を有することが確認された.BDSをセンサ素子として構成した生体物質識別装置を用いて,実際に酵素(ウレアーゼ,グルコースオキシターゼ等)による基質(D-グルコース,尿素等)の濃度定量実験をおこなったところ,出力(パルス状出力波形のピーク値)が各基質の濃度に直線的に比例することが分かった.特に,尿素に関しては1.67×10^<-4>mol/l程度の高分解能を示した.また,各酵素反応の応答波形はそれぞれ立ち上がり時間などが異なっており(同一の酵素反応においては相似形を示す),複数混合された状態においても出力波形の形状からそれぞれを識別できることが確認された.また,現在,この生体物質識別装置を交付された「生体物質自動操作ユニット」やデータ処理装置等と組み合わせた自動生体物質識別システムを構築中である. これまでの研究で,生体物質識別の作製法はおおむね検討されたと考えられる.今後は,センサの耐久性やデータ解析(特に応答波形の形状の抽出ならびに推定)の自動化等を行っていく予定である.
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