数理モデルによる網膜神経回路の研究では、従来、個々の網膜内神経細胞のイオン電流に基づくモデル化が進められてきた。それら細胞モデルを統合し、網膜神経回路全体の数理モデルを構築するためには、細胞間のシナプス伝達特性のモデル化が必須になる。このシナプス伝達機構には、細胞内Ca^<2+>が密接に関与しており、シナプス伝達機構モデルを構築するためには、細胞内カルシウム機構のモデル化が避けては通れないステップになる。そこで、本研究では、網膜2次ニューロンである水平細胞と双極細胞、および、出力ニューロンである神経節細胞を対象に、イオン電流およびCa^<2+>機構に基づいたモデル化を進めるとともに、シナプスのCa^<2+>機構を含めた基本的な伝達機構に関してモデル化を行った。 イオン電流機構に基づきウサギ網膜水平細胞のモデル化を行い、反復性活動電位の発生メカニズムについて解析した。その結果、水平細胞に存在するCa電流と遅延整流性K電流によって、反復性活動電位が発生することが示された。また、最新の生理学的知見に基づき、Na電流、2種類のCa電流、3種類のK電流、過分極活性型内向き電流、漏れ電流から構成される神経節細胞のイオン電流モデルを構築した。本モデルは、膜電位固定、膜電流固定実験時の膜応答に加え、K電流ブロックによるスパイク発生頻度減少を忠実に再現するものである。 樹状突起の伝達物質依存性電流、シナプス終末のCa^<2+>機構をモデル化し、既に提案した細胞体モデルと統合することで、部位による非一様なチャネル分布を有するオン型双極細胞をモデル化した。これを用いて細胞体とシナプス終末間の伝達効率、および、光応答に対する各イオン機構の影響に関して解析した結果、双極細胞は双方向に情報伝達し易い膜特性を有し、その光応答はシナプス終末によってダイナミックに影響を受けていることが明らかになった。
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