研究概要 |
本年度は,対象とする材料を金属に絞り,その放射率が金属表面に酸化膜が生成する過程において大きく変化する挙動を理論・実験両面から調べた.この放射率変化は下地の金属面と酸化膜面の間での放射の干渉現象によるものと予想されている. 基盤となるシミュレーションモデルは,導電体(金属)と誘電体(酸化膜)からなる層を境界値問題としてMaxwell方程式を解いて,p-偏光放射率とs-偏光放射率の特性を導いた.両者は特に面法線から角度の大きいところで著しく異なる挙動をすることが示された. これを基にして,実用金属(冷延鋼板)の偏光放射率挙動を実験的に調べたところ,理論では放射率が酸化膜厚変化に伴い周期的な変化をするのに対し,実験結果は放射率は酸化の初期において理論と同様な傾向の大きな変化を示すものの周期的な変化はなく,実験・理論の間の十分な一致をみることはできなかった. モデルを実験結果に近づけるためには,金属表面の粗さの影響および酸化膜の吸収・散乱の影響を考慮した放射率モデル化の構築が必要である.そのため,現在これらの諸因子がどの程度の影響を与えるのか基礎的な実験により調査している. 今後は,冷延鋼板やステンレス鋼板など,実用金属の放射率挙動を表すシミュレーションモデルの構築とともにSi半導体を対象とした同様なモデル構築を進めていく予定にしている. 本研究過程での副産物として放射率の方向特性ならびに偏光特性を利用して,放射率が酸化膜の生成による干渉現象で大きく変化する場合に,これを回避して放射率ならびに温度を同時測定する新しい放射測温法を構築することも可能であることを確かめることができた.
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