研究概要 |
鋼板など金属や半導体表面に酸化膜が成長する過程における放射率挙動, すなわち方向特性と偏光特性の変化を表すモデルとして既存理論の適用範囲の再確認すると共に, 新たに表面粗さを含む諸パラメータを統括して表現する実効的光学定数の概念を導入してモデル化した. これらをまとめると, 実用金属の放射率は, 5μm以上の長波長ではHagen-Rubensの公式でほぼ表現できる. ただし, 短波長での実測値はこの公式より高い値を示す. この限界は理論式の仮定からのずれと表面粗さなどの要因によるものと考えられる. 金属面に生成する酸化膜によって生じる放射率変化は導電体である下地の金属と誘電体である酸化膜からなる2層薄膜間の放射の取り扱いで説明することができる. この理想的なモデルで解析すると, 方向特性, 偏光特性の大部分の現象を把握することができる. この条件下では, 放射率の変化が周期的な振動現象となるが, 実測の放射率変化は振動的であるが, 最終的に一定値に収斂する. この現象を説明するには酸化膜が複素屈折率を有することで解決する. 金属が光学的に滑らかでない状態でも, 薄膜の理論を適用するためには, 表面粗さや酸化膜の不均質さを等価的に均質な膜とみなして展開するEMT(Effective Medium Theory)モデルにより, 実効的光学定数を用いることによって, 実用に近いモデル化が可能である. 実効的光学定数を測定するには, エリプソメトリを利用できる. 本手法で残された問題は, 実効的光学定数の概念が表面粗さを含む諸要素との絡みでどこまで有効に作用するのか限界を調べる必要がある. 放射率モデルのもう一つの問題点は, 放射率の測定は放射輝度を計測によってなされるが, 常温で得られる光学定数の温度特性, あるいは加熱中に試料自体の表面状態が変化するためにモデルとの定量的な比較検討・評価である.
|