「免疫型複雑系」におけるエージェントとは、複雑系としてみた免疫系における免疫細胞に対応する自律性を持った処理主体であり、「免疫型システム」を自律分散システムとして計算機上に実装するための基本的要素である。「免疫型システム」とは、免疫系を記憶をもった情報処理系としてみたとき、その作動・処理原理に従来とはない多くの学ぶべき点があり、そのなかで特に計算機による処理が可能で、知能システム構築に役立つものに焦点をあててまとめた情報処理パラダイムである。作動・処理原理として(1)複数のエージェントによる分散・ネットワーク処理、(2)自己(非自己)参照による「自己-非自己識別」、(3)多様性を駆使した適応戦略に焦点を当てた。研究実績は、以下の4点にまとめられる。 1.総論(成果報告書第1部):免疫系を免疫細胞に対応する自律性を持ったエージェントによる自律分散システムとみなし、免疫型システムを情報処理システムとして構築するための基本設計パラダイムを構築した。また、免疫現象を複雑系の視点でとらえ、シミュレーションやそれを行うためのモデル構築の指針を与えた。 2.応用1(成果報告書第II部):上記基本設計パラダイムに基づき、さらに具体的応用をインプリメントするための仕様を考察した。特に上記作動・処理原理に基づきセンサーべース診断、外乱の適応的除去、情報収集エージェントの信用度評価への応用をおこなった。 3.応用2(成果報告書第II部):上記基本設計パラダイムにより、コンピュータウイルスにたいし、コンピュータネットワークを用いて防御するシステムを試作した。さらにコンピュータウイルスの伝染現象を、ネットワーク上の情報伝播現象と捉え、複雑系の視点からその伝播の特徴の解析や効果的防御を考察した。 4.理論(成果報告書第IV部):今後重要となる免疫系の多様性戦略について、HIVと生体免疫の相互作用モデルにつき考察した。特に、多様性がクリティカルな決定条件を与える場合に焦点を当てた。
|