運動学的断層モデルから発生した地震波が地盤中を伝播し地表面に到達するという地震波発生・伝播の物理過程を境界積分方程式によって定式化した。この境界積分方程式を一定要素の3次元境界要素法を使って離散化し、地表面の地震動を計算するプログラムを開発した。本研究では、無限粘弾性体におけるグリーン関数を基本にしているため、地表面も離散化する必要があるものの、地表面の地形の影響を解析できる利点を有する。また、震源断層-不整形地盤系が境界積分方程式によって統一的に定式化され、これを境界要素法によって離散化している解析法であるため、従来の方法に比べ解析のための仮定がなく解析結果は厳密であるといえる。 震源断層を含む半無限地盤の上に矩形谷地盤が存在するような震源断層-不整形地盤系のモデルを想定し、震源断層と矩形谷地盤の位置関係によって地表における地震動の時間的-空間的分布特性がどのように変わるかを調べた。この解析では地盤が水平成層構造とみなされるような場合についても解析を行った。その結果、震源断層近傍の地震動は台風の雲の動きのように渦を巻きながら伝播し、地震動の時空間分布特性は極めて複雑であるあること新しく見つけた。そして、これらの渦を巻きながら伝播する地震動特性は、震源断層と矩形谷地盤の位置によって大きく異なることがわかった。神戸のように硬い岩盤に接して洪積層が存在する場合、地震動の最大値の分布は断層から少し離れた位置に生じるなどの1995年兵庫県南部地震の際の「地震の帯」も再現できた。このように震源断層近傍では、震源断層と不整形地盤の位置関係によって地震動の時空間分布が大きく変わるが、これを簡易に予測するまでには至っていない。
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