科学研究費の援助により、第一の目的とした降雨時の斜面表層崩壊の機構は、「(1)降雨の鉛直浸透、(2)斜面下部ほど水深の大きな地下水流の発生、(3)表層厚に対し地下水の水深がある値を超えた地点での斜面崩壊の発生」という3過程モデルとしてとして、明らかにできた。関係各位のご協力と、「浸透解析や斜面安定解析に、数値解析法を用いず、パラメータの影響が明確に表せるように理論式を用いて式示する」という手法を採用したことが、一応の成功の背景にある。 第二の目的とした植生の崩壊防止効果については、植生による被覆が浸透特性を変化させ降雨の鉛直浸透量を減少させること、根系の存在が土に引張り強度を与えるとともにせん断強度の増加にも役立つことを力学的に指摘できた。しかし、これらの効果を定量的に評価するまでには至らなかった。無機的な土だけでなく生物も扱うためには、長期間の現地観測と室内実験など、時間をかけた研究が必要であると痛感した。 ところで、斜面表層崩壊は山地・丘陵地で生じるため、テルツァーギ以来の近代的土質力学が主対象としてきた沖積地盤と比較して、土質パラメータの一様性が低い。 本研究では、このようなパラメータの測定・決定法に関して、提案法を含む各種の方法をいくつかの現地調査で実用し、理論的検討結果や室内実験結果を参考に、検討を加えた。そして、表層土の浸透特性については、鉛直浸透特性は浸透能が予想最大降雨強度を越えていることの確認さえできればあまり重要でないが、基岩平行方向の浸透特性の精度が重要であることを示した。しかし、簡便で精度のよい基岩平行方向の浸透特性測定法は、現時点では開発されておらず、今後の研究課題である。
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