本研究では、リーチング作用、すなわち塩分溶脱作用を受けた有明粘土の動的性質を明らかにして、それに基づき有明粘土地盤上における河川堤防等の土構造物の地震時安定性を評価することを試みた。具体的にはまず、塩分溶脱作用を実験室内で再現する手法を確立し、その作用を受けた有明粘土のステージ載荷による動的変形・強度試験、および圧密試験を実施した。塩分溶脱作用は、海成の有明粘土を中空ねじりせん断装置にセットし、動水勾配を25程度で一定にして、長時間蒸留水を通す方法で再現した。次に、各ステージ間での排水により、塩分溶脱作用の影響が明確に現れにくいことが推察されたため、塩分溶脱された粘土に一度だけ繰返し載荷を与えた場合の動的強度および繰返し載荷後の静的せん断強度やせん断剛性の低下率を調べた。さらに、塩分溶脱作用を受けた有明粘土に十分繰返し荷重を与えた場合における繰返し載荷後の静的せん断強度やせん断剛性の低下率を調べた。これは、塩分溶脱された有明粘土が繰返し荷重のような外乱を受けて、クイッククレイ化するかどうかを確かめるための試験である。また、以上の実験結果に基づいて盛土構造物の残留変形解析も実施した。 本研究では以下のことが認められた。(1)塩分溶脱作用を受けると、圧縮性が高まり、動的強度が低下するが、動的変形特性はほとんどその影響を受けない。(2)繰返し載荷後の静的せん断試験では、塩分溶脱作用を受けると、未溶脱の場合と比較してせん断強度やせん断剛性がさらに低下する。(3)繰返し載荷により両振幅せん断ひずみが10%発生しても、その後の静的せん断試験においてクイッククレイ化は見られない。ただし、そのときのせん断剛性の低下は著しい。(4)残留変形解析により、有明粘土地盤では、塩分が溶脱されると、土構造物の地震時安定性が著しく損なわれることが明らかになった。
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