研究概要 |
底泥からの塩分溶出量を評価するために,貯水池泥のサンプルを持ち帰り,貯水池水や純水など周囲水環境を変化させて室内実験を実施した.これより,底泥直上の貯水池水を用いた場合には,たとえ貧酸素状態を維持しても底泥からの物質溶出はほとんどないこと,純水を用いた場合には塩分が溶出し,電気伝導度が80μS/cm程度に至ると溶出がほぼ収まることなどが明らかになった.一方,多目的ダム管理年報より,逆転水温層が形成される貯水池の水文・地形条件を分析したところ,急峻な湖盆地形を有する場合には逆転水温層が形成される傾向が強いことがわかった.これより,湖盆傾斜面に沿って発進される塩分起因の熱塩プルームが逆転水温層の形成要因であるという熱塩循環モデルを構築した.この熱塩循環仮説に基づいて,溶出塩分により発生する傾斜プルームの理論解析と水理実験を行った.流れの相似性を仮定してプルームの流速・濃度分布形と流下方向の発達特性に関する理論解を得た.実験と理論は良好に一致し,本理論解に基づいて,栄養分など底泥から溶出した物質の熱塩輸送量を評価することが可能となった.現地観測においては,水質諸項目の定期観測を継続し,過去数年間の観測データとも併せて貯水池の熱塩特性が明らかになった.これによると,貧酸素層が拡大した受熱期において底層へ熱と塩分が輸送され,放熱期には大循環によって貧酸素層が縮小し,一部の底層水が残された状態で底層の熱と塩分が上層へ拡散することが明らかになった.一方,マイクロバブル発生装置を貯水池内に設置し,水質浄化実験を開始した.後期が当初の計画より遅れたために,まだ十分なデータと知見は得られていない.
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