近年の気候変動および異常気象の発生は、将来の水資源確保の不安定要因として懸念されている。これに伴い気候変動の定量的解析・予測および水資源への影響評価が重要な課題となっている。 本研究課題では、まず、エルニーニョおよびラニーニャ現象の指標となるサザンオシレーション指標(SOI)時系列のカオス的特性解析を行い、SOI時系列が決定論的カオスであるかどうかの判定を試みた。この場合、従来からの線形スムージ手法および近年理学の分野で提案されている非線形スムージング手法を、種々のカオス判定手法と組み合わせて適用することによりSOI時系列のカオス特性を抽出した。その結果、SOI時系列は決定論的カオスというよりも、周期成分を含む確率過程であると判断された。 次に、サザンオシレーション指標(SOI)と水文気象データとの相関解析については、国外では精力的に研究されており、特にアメリカ、ヨーロッパ、オセアニアにおける降水、気温データとSOIの関係については多くの研究がある。しかし、日本域のデータを用いた相関解析例はあまり見受けられない。よって本研究課題では、福岡市の1890年1月から1998年12月までの1308ヶ月間の月降水および月平均気温データを用い、SOIとの相関解析に重点を置いて解析を行った。降水・気温の全時系列対象としたSOI時系列との相関は、どの遅れ時間に対してもほとんどゼロであった。そこで、SOIデータをその大きさにより、5つのカテゴリーに分類し解析を行った。その結果、SOIの絶対値が大きいカテゴリーを対象とした場合、降水・気温ともにSOIとの有意な相関が得られた。具体的には、SOIが2以上の強いラニーニャが発生した場合、その現象が強いほど4ヶ月後の福岡市の降水は少雨に、また気温も低くなる結果を得た。 さらに、SOIの元となる気圧データの存在状況や欠測値、補間値などのSOIを用いる上での基礎情報やSOIの発生頻度や持続特性などの統計的特性についても検討を行った。
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