研究概要 |
1.はじめに これまでの振動に対する知覚閾の評価は,実際の生活環境とは隔たりのある実験結果に基づいて行われてきた。本研究は実状により近い環境条件のもとで被験者実験を行い,日常に即した水平振動に対する評価指標を得ようとするものである。 2.結果 本年度は,被験者の揺れの発生に対する緊張感を紛らし,生活環境に近い状況を作る実験方法を検討した。居室内にはカーペット,エアコン,テレビを設置し,本と雑誌などを準備した。実験者との接触の機会をできるかぎり少なくするよう,CCDカメラによるモニタリング装置や居室全体がみわたせる画面分割装置なども利用した。数回の予備実験を実施した後,実験方法を確定した。被験者は1人で約5時間居室内で過ごす間,テレビ,本,雑誌などを自由に見ることができる。その間,被験者の希望によっては昼食や菓子・飲み物類も居室内でとれるように配慮した。実験者はその間に予告なくランダムな間隔で振動を入力し,被験者は揺れを感じたときだけ実験者に合図する。このような方法で,約30名を対象に実験を行った。比較対照するために,振動の発生を予告した実験を同時に行った。その結果,振動の発生を予知せずリラックスして過ごすことで,水平振動に対する知覚閾はより大きくなることがわかった。その影響量は振動に対して敏感な範囲では小さく,振動数がより低くあるいは高くなり感覚が鈍くなるはと大きくなる傾向にある。 3.今後の研究課題 本年度の実験結果によって,振動発生の予知が知覚閾に及ぼす影響を知ることができた。一方,同じように振動発生を予知している場合にも被験者の状況によって知覚閾に違いが生じることなどもわかった。今後はこの要因を追究するとともに,振動発生の予知以外の周辺要因が知覚閾に及ぼす影響を検討する必要がある。
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