建築物外表面の対流熱伝達率に関する実験的研究としては、壁面の一部に設置した小型の熱流板を対象とした報告はあるが、建築物各面全体を対象とした研究は見られない。これは建築物壁面における対流熱流量密度の測定が困難なためである。 本研究では、伝達熱流量密度の測定精度より建築物各面全体の熱伝達率分布測定に重点をおき、屋外に設置したSAT計よりなる小型建築物模型(1.1m × 1.1m × 1.1m)の平滑面を対象に実験を行い、SAT計、赤外線放射温度計、放射収支計の測定結果より伝達熱流量密度を求める方法、さらに建築物各部位の対流熱伝達率を求める測定法について開発を試みた。 建築壁面の気流には、1)建築物によって形成される特有の周辺気流と、2)その周辺気流が壁面の凹凸により更に複雑に変化して形成される壁面近傍気流がある。本研究では、建築物周辺気流の基準となる1)の周辺気流を対象とする。 屋外における建築物模型の周辺気流は、風向が比較的安定した場合には正圧面、負圧面とも特有な気流特性を示し、日射を受ける壁面はその気流特性に対応する表面温度分布となる。本研究では赤外線放射温度計による壁面の熱画像を10cmに分割し、それぞれの面における熱収支量より熱伝達率を求めた。この方法は、凹凸面が非常に小さい建築物壁面に複数のSAT計を設置することができれば、測定精度はやや落ちるものの壁面全体の熱伝達率分布の測定ができる可能性を示した。今回は測定機器の都合上、放射収支計による値を用いたが、同時に放射計の測定値が得られれば、更に測定精度を上げることが出来る。
|