1.はじめに:近年、住宅の省エネルギー化に伴い高気密・高断熱化された住宅が一般的になってきている。しかし、それに反比例するように揮発性有機化合物(以下VOC)による健康への影響が問題視されており、また、既往研究から室内汚染物質濃度予測には建材への吸着の影響を考慮する必要があるとされている。 2.研究の目的:そこで、室内VOC濃度予測に必要な因子の1つである建築材料への吸着特性を把握し、室内換気設計のための基礎的な資料作成が本研究の目的である。今回は室内環境中に存在する物質の中から酢酸エチル、トルエン、HCHOを選択した。 3.実験概要:試験体の側面と裏面は、アルミ箔とアルミテープで封をする。また、使用する建材からのVOC放散の影響を少なくするため、工場出荷後1年以上経っているものを使用した。試験体への被曝は、標準ガス調節滞(パーミエーター・ガステック社)により一定量の濃度の標準ガスを発生させる。また、2つのチャンバーからの分析試料の切り替えは、マルチポイントサンプラー(B&K社製1303型)で行い、チャンバー内の連続濃度分析は光音響式速続分析器マルチガスモニター(B&K社製1302型)で行う。試験体(建材MDF板)をステンレス製(20L)のチャンパーへ設置後、チャンパー内濃度を各物質の各設定濃度まで上げ、設定濃度到達後、24時間曝露する。また、blankについては清浄な空気を曝露した。その後、チャンバー内濃度の経時変化を24時問測定する。曝露濃度の最低設定値は臭気の閾値であり、ウェバー・フェヒナーの法則に従い、その値の10倍、100倍で設定した。設定濃度の低い順にC-1、C-2、C-3(HCH0はC-3のみ)で示す。 4.結果と考察:トルエンは約4時間後、酢酸エチルは約6時間後、HCHOは約5時間後に放散量がピークに達した。物質による差はあるが、同物質の場合は曝露濃度に関係なくピークに達する時間が±10分でほぽ同じである。酢酸エチルに関しては、濃度が高ければ高いほど吸着が起こり、脱離する量(放散量)も多くなることが考えられる。トルエンに関しては、C-1、C-2の濃度はブランク値まで減衰している。このためC-2の曝露濃度までは、吸着の影響は少なく試験体からの再放散も少ないことがわかった。つまり、各物質とも低濃度の暴露による吸着の影響は極めて少ないと考えられる。トルエンC-2の濃度で24時間曝露した後の試験体からの放散量を温度差10℃(18℃、28℃)で示したものである。放散量のピークは28℃が13mg/m2・h、18℃が11m2・hで、28℃の方が約8%多く発生している。つまり、温度が高い方が吸着し再放散すると考えられる。 5.まとめ (1)各物質の24時間曝露後の試験体からの放散量のピーク時間は濃度に関係なく同じである。しかし物質により多少異なることがわかった。 (2)各物質とも、濃度が高ければ高いほど吸着は起こり、脱離する量も多くなることが考えられる。 (3)低濃度曝露における吸着の影響は、少ないことがわかった。 (4)トルエンに関しては温度が高い方が吸着することが考えられる。
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