本年度は、痴呆性高齢者のケアの場として専門に設計された我が国でも先進的なグループホームのひとつである「こもれびの家」を調査対象として、入居直後から時系列的調査を7ヶ月3期に分けて行い、痴呆性高齢者がグループホームヘ適応する過程における、空間的な環境要素、運営的な環境要素、社会的な環境要素との関わりを分析し、痴呆性高齢者のためのケア環境のあり方を明らかにした。 その結果、1)入居当初は誘導により空間を利用する割合が高いが、入居後4ヶ月経過したあたりから次第に自発的な空間利用が増加することを明らかにした。このことから、職員の有効な空間誘導により空間への学習を深め、次第に空間の利用、使いこなしが可能になることを示した。また、2)会話回数から入居者間の交流を分析した結果、当初、食卓の隣の席同士に限られていた会話相手が、グループホームヘ適応する過程により次第に食事の席に限定されなくなることを明らかにし、グループホームにおける行為の広がりに伴い人間関係も形成されることを把握した。また、3)痴呆性高齢者の適応状況を測るため、職員の介護行為を分析した結果、入居直後は「心理的サポート」と「空間的誘導」が多いが、入居後4ケ月経過すると、「社会関係」業務、「環境管理」など職員が直接入居者と関わらない「見守り型」の介護行為が増加することを明らかにした。入居者が自らのペースで生活を構成できるようになると、職員の役割が直接的なケアから間接的なケアへ変化する実態を示した。 以上から、痴呆性高齢者がグループホームに適応する過程において、空間的な環境要素、運営的な環境要素、職員の介護行為が極めて大きな役割を果たすことを明らかにした。
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