地域空間は、人々の生活の場として自然環境を基盤にさまざまな人為的開発の総体によって形成されている。安定した良好な地域空間は、自然環境と人為環境の調和のうえに、そこで営まれる日常生活において住民が豊かなアメニティと精神的充足感を享受できるものでなければならない。 本研究は、東アジアにおける空間計画原理として伝統的に継承されてきた「風水」を中心に、経験則に基づく地域環境形成手法を実証的に分析・検討し、体系的に整理することによって、地域空間計画への新たな指針を得ようとしたものである。 研究の手順・内容は次のとおりである。 1.中国の古典、風水の原典に基づき、「風水」の原初形態と理念、風水空間の構造と構成要素、および風水理論と実践手法と判断基準を明らかにした。 2.地理的条件の異なる千葉、長野、滋賀の3県を対象に、近代初頭における地域中心集落を取り上げ、地形図の判読調査と現地調査に基づき、風水空間の構造を読み取り、その特性を分析するとともに、地域の歴史・社会条件等との対応を考察した。 3.清朝末期の台湾における地域中心都市を対象に、上記2と同様の調査・分析を行い、日本の3県と台湾の事例との比較考察を試みるとともに、風水理論に基づいて立地選定がなされたとされる都市における空間構造特性の確認を行った。 4.文献研究と事例研究によって得られた結果を総合的にまとめ、風水空間の特徴について類型の型、属性、社会要因との関係等の面から検討を加え、その有効性と問題点を整理するとともに、風水思想の位置づけと現代的意味を考察した。
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